後見制度
認知症や知的障がい、精神障がいなどにより、判断能力が不十分な方は、自分の財産管理や生活にかかわる契約を行うことが困難であったり、悪徳商法の被害にあう恐れもあります。
このような方が安心して暮らせるように、本人を保護し、法律面や生活面で支援する身近なしくみが成年後見制度です。
また、本人のご家族が後見制度の利用を検討する事も多くあります。
例えば、本人が所有する不動産の処分や相続の際の遺産分割協議、介護施設へ入所する為の介護保険契約の締結、預貯金の解約等、本人が行うことが求められており、ご家族が本人の代わりに手続きをする事ができません。このような場合、本人に代わって手続きすることが法律上認められた後見人等に手続きをしてもらう事となります。
ただし、後見人等は本人の不利益となるような手続きはできません。
処分する不動産が本人の居住している不動産の場合は、様々な観点から処分する事が適当かを判断し家庭裁判所の許可も得た上で、手続きする必要があります。これは、居住している不動産を処分すると、居住環境が変わり、それは精神的な影響が大きいと考えられるからです。この場合の居住している不動産は、住民票上の住所に関わらず、実際に居住している不動産となります。
遺産分割協議の場合も、本人の法定相続分を下回るような協議はできません。また、後見制度利用後は、本人の財産は後見人等が管理することになる為、家族が本人のお金を自由に使う事はできなくなります。家族が後見人等になる場合は、本人の財産と、後見人等家族の財産と明確にわけて管理することなどが、本人の財産管理・身上監護の為に求められます。
また、後見制度を開始した場合、判断能力が回復した等の特別な事情により家庭裁判所が取り消しの審判をしない限り、本人が亡くなるまで利用し続ける必要があります。
成年後見制度の種類
既に判断能力が不十分な場合、家庭裁判所に申立てをし、法定後見制度を利用する事ができます。この法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じた、後見・保佐・補助の3つの類型があります。
支援の必要性:強
後見:本人は日用品の購入その他日常生活に関する行為以外の法律行為はできず、保護者として選任された成年後見人が法律行為を代理して行います。
支援の必要性:中
保佐:本人は法律(民法13条1項)で定められた重要な法律行為を単独ではできず、保護者である保佐人の同意が必要となります。
支援の必要性:弱
補助:本人は法律(民法13条1項)で定められた重要な法律行為のうち、家庭裁判所が定めた特定の一部の行為は単独ではできず、保護者である補助人の同意が必要となります。
また、法定後見制度とは別に、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、自分自身の判断能力が不十分な状態になった場合に備えて利用する、任意後見制度という制度もあります。あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくというもので、本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が、任意後見契約で決めた事務について、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもと本人を代理して契約などをすることによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。
未成年後見制度
「未成年後見制度」とは、未成年者を対象とした制度で、未成年者に対して、親権を行う者(親権者)がいなくなってしまったときに、未成年者の法定代理人となる者を未成年後見人といいます。
未成年者の親権者は未成年者の法定代理人として、未成年者の財産を管理したり、未成年者に代わって契約を締結したり、未成年者の法律行為に同意をしたりします。通常は、未成年者の両親の両方または一方が親権者であることがほとんどです。ただ、両親がともに亡くなってしまった場合のように、親権者がいなくなってしまうと、未成年者の法定代理人となる者として未成年後見人が必要となります。
なお、現在は原則20歳未満の者を未成年者としていますが、改正により2022年より未成年者の年齢は18歳未満となります。
後見人等
後見等の申立ての際に、後見人等の候補者を記載する事ができますが、必ず候補者が後見人等に選ばれるとは限りません。その為、本人の家族が後見人等になろうとしても、家族以外の後見人等が選任される可能性もあります。また、家族が後見人等となった場合でも、原則として後見人等監督人が選任され、後見人等として問題なく職務を行えているかの監督を受け、年に一度、家庭裁判所へ報告書を提出する事も必要となります。
現在は、司法書士・弁護士・社会福祉士の専門職の後見人が全体の7割程度を占めていますが、平成31年の専門家会議で最高裁判所が「後見人は親族が望ましい」との考え方を示しており、今後親族が後見人等となるケースが増えていく可能性があります。
司法書士のうち、(公社)成年後見センター・リーガルサポート(以下、「LS」という)に所属し、後見人候補者名簿に登載された司法書士が後見人等に選任された場合、原則として後見人等監督人は選任されません。LSに入会し、後見人候補者名簿に登載される為には、22単位以上の研修を受ける必要があり、登載期間も2年間と短く、更新する場合にも15単位以上の研修が義務付けられています。また、年に一度の家庭裁判所へ報告に加え、LSにも年に2度報告書を提出し、適正に後見業務が行われているかもチェックされます。
このように、研修・チェックを強化することで、裁判所からの信頼も得られた結果、専門職後見人のうち司法書士が最も多く選任されております。
後見人の業務
後見人の主な役割としては「財産管理」と 「身上監護」があります。
「財産管理」とは、預貯金等の管理および金融機関等との取引、保険(生保、損保)証書の保管管理、保険料の支払い、保険金の受け取り、年金や不動産の賃料等の定期的な収入の管理、ローン返済、家賃の支払い、税金の支払い、社会保険の手続きや支払い、公共料金の支払い、不動産の売買契約や賃貸借契約の締結・解除、確定申告の手続き等で、「身上監護」とは、病院等の受診、医療・入退院等に関する契約、費用の支払い、通所・入所施設の利用契約の締結や費用の支払い、本人の心身の状態や生活状況に対する見守り、提供されている福祉サービスのチェック、本人の住居の関する契約、費用の支払い等です。
なお、実際の介護や看護は身上監護には含まれません。介護等が必要な場合、ホームヘルパーの派遣など必要な手続きを行うことが「身上監護」の内容になります
また、成年後見制度は「ノーマライゼーション・自己決定の尊重という理念と本人の保護の調和」を目的としおり、身上監護に止まらず、本人の生活を支えること(身上配慮義務)も後見人等の役割とされています。
後見制度の利用
後見制度の利用をお考えの方は、家庭裁判所のホームページをご確認頂くか、当事務所までお問合せ下さい。
後見人等として、本人の支援をする事も、親族を後見人候補者として申立てをする家庭裁判所への提出書類を作成させて頂く事も可能です。
その他の業務
過払い金返還請求(不当利得返還請求)
消費者金融、クレジットカード会社、大手デパートカードなどのカード会社に対して、払い過ぎていた利息(過払い金)がある場合、裁判手続及び裁判外の交渉を通じて、払いすぎた分の返還請求を行う事ができます。過払い金は、過去に利息制限法の上限を超えた利率で返済していた場合に、改めて利息制限法所定の利率にて計算し直すと、元本を完済した後にも支払いを続けていた可能性があります。この完済後に支払った分が過払い金であり、支払う必要の無かった分の為、返還を請求できるというものです。
(利息制限法を超える利率での貸付は、出資法に基づき行われていました。出資法の上限利率が利息制限法の上限利率よりも高かった為に発生した問題で、この利息制限法の上限利率から出資法の上限利率までをグレーゾーン金利と呼びます。現在は出資法の上限利率が利息制限法の上限利率に合わせられた為、この問題は今後、発生しない事になります。)
特に長期に渡り、借入返済を繰り返していた方は高額な過払い金が発生する可能性があります。また、過払い金返還請求は時効により、請求できなくなるリスクがありますので、少しでも気になる方はお早めにお問合せ下さい。
裁判に関する業務
民事訴訟をするために必要な訴状や準備書面、民事調停を利用するために必要な申立書など、民事紛争に関するもの、相続放棄や成年後見に関する申立書など、家庭内の問題に関するもの等、裁判所に提出する書類や、支払督促や強制執行にかかわる書類について、司法書士は作成することが認められています。
また、認定を受けた司法書士は、簡易裁判所の民事事件(訴額140万円以内)等について、当事者の代理人として業務を行うことができます。簡易裁判所における民事訴訟手続、訴え提起前の和解(即決和解)手続、支払督促手続、民事調停手続、少額訴訟債権執行手続や裁判外の和解交渉手続などです。
供託手続
供託手続きとは、支払義務がある方が支払いをしたいにも関わらず、相手方の事情により支払う事ができない場合に、代わりに法務局に預ける(供託する)事で、支払義務を履行したものと取り扱うという制度です。
例えば、借りている部屋の家賃を支払おうとした際に、大家さんから「今月から値上げしたから、値上げ前の金額では受けとらない」と言われてしまった場合(受領拒否)や、大家さんが亡くなり大家さんの相続人がどこのだれかわからない場合(債権者不確知)等、日常生活においても遭遇する可能性があります。
このような場合に、供託手続きをせずに放置し続けると、家賃の未納として扱われてしまい、滞納による契約解除を求められてしまう可能性もあります。
司法書士は供託手続きを代理して行う事が業務として定められておりますので、お困りの方はご相談下さい。(家賃以外にも様々な供託が定められています。)
筆界特定手続
自分の土地と、お隣の土地の「さかい」(筆界)が明らかでない場合、法務局に筆界特定の申請をすることによって、裁判に比べて迅速に、費用を抑えて、公的な判断として筆界を明らかにする事ができます。
筆界特定は新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上、もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにすることなので、土地の所有権がどこまであるのかを特定することを目的とするものではありません。また、所有者同士の合意により変更することもできません。結果に納得できないときは、後から裁判で争うことができます。
法務大臣の認定を受けた司法書士は、筆界を形成する2つの土地の合計の価格が5,600万円以下の場合は代理人として手続を行うことができます。